結論から書くと、架空の取引10件をClaudeに仕訳させたら、金額と借方・貸方の合計は2回とも全部合っていた。源泉徴収の5,105円も、振込手数料の差し引きも正しかった。ただ、表の下に添えられた「確認しておくと良いこと」の1文が、国税庁の説明と食い違っていた。間違いは表の数字ではなく、親切な補足の中に入っていた。
だから、AIに仕訳を頼むのは「アリ」だと思う。ただし、①理由を言わせる ②別の会話で検算させる ③合計と税額だけは自分で計算し直す、の3段をセットにする。この記事では、その手順と、実際に試した結果をそのまま載せる。
試した条件:2026年10月17日、Claude(Claude Codeのサブエージェント機能で、別々の会話として実行)。仕訳は同じ依頼で2回、検算は1回。会社も取引もすべて架空で、実在のデータは使っていない。素のチャット画面(claude.ai)とまったく同じ答えになるとは限らない。
「新人の経理がChatGPTに頼りきり」はアリなのか
経理に入ったばかりの人が、仕訳やExcelの式をChatGPTに聞きながら仕事をしている。先輩からは「鵜呑みにしないで確認して」と言われる。これで大丈夫なのか——という相談は、Yahoo!知恵袋でも見かける。回答には「調べ物には便利。ただ会社のルールや判断が要るところは人に聞く」「式の意味を分からずに使うとブラックボックスになる」という声が多い。
小さな会社だと、経理が1人、しかも他の仕事と兼任ということはよくある。聞ける先輩がいないから、AIに聞く。それ自体は自然な流れだと思う。問題は「AIの答えのどこを、どうやって確かめればいいか」が分からないまま帳簿に入れてしまうことだ。
そこで、間違えやすいポイントを入れた架空の取引10件を作り、Claudeに仕訳を頼んで、どこまで合っているかを自分で数え直してみた。ChatGPTやGeminiでも、同じ手順はそのまま使えるはずだ(今回試したのはClaudeだけ)。
早見表:AIの仕訳を検算する3段の手順
| 段階 | やること | 見つかるもの | 今回の結果 |
|---|---|---|---|
| ① 理由を言わせる | 仕訳と一緒に「その科目にした理由」を1行ずつ書かせる | 科目の選び方の迷い・前提の違い | 10件すべてに理由がつき、交際費との違いやパソコンの特例など、迷いやすい所の説明も添えられた |
| ② 別の会話で検算 | 元のメモと仕訳表を、新しい会話に貼って「検算して」と頼む | 計算元の違い・転記ミス | わざと計算元を変えた1行を「要確認」として見つけた |
| ③ 自分で計算し直す | 貸借の合計・税額・差し引き額を電卓かExcelで | AIどうしが見落とすもの | 数字は全部一致。補足の1文の誤りは、国税庁のページを読んで初めて気づいた |
※税額・制度の説明は2026年10月17日に国税庁のタックスアンサーで確認した範囲。実際の処理は会社のルールと顧問の税理士に従ってほしい。
実験①:架空の取引10件を仕訳させた
取引は、新人がつまずきやすいものを混ぜて10件作った。家賃・文房具のような簡単なものに加えて、次のような「ひと手間」が要るものを入れている。
- 入金額が請求額より660円少ない(振込手数料を先方が差し引いた)
- 個人のデザイナーへの支払いで、源泉徴収が要る(請求書は本体50,000円+消費税5,000円)
- 165,000円のノートパソコン(費用か資産か)
- 社員の立て替え(電車代+タクシー代)を後日現金で精算
- 1枚のレシートに8%(弁当)と10%(紙皿)が混ざっている
- 月末のカード引き落とし(2件分の合計)
依頼文は「経理を始めたばかりです。10件を仕訳表にしてください。消費税は税込経理でOK。科目の理由も一言ずつ。最後に借方合計と貸方合計も」という、新人が実際に打ちそうな文面にした。

※画面は実際の返答の文面を、見やすく再現したもの(理由の部分は省略)。
自分で数え直した結果
返ってきた表を、1行ずつ計算し直した。
- 借方合計・貸方合計:どちらも1,178,560円。13行の借方と12行の貸方を足し直して一致した。
- 振込手数料:329,340円+660円=330,000円で、売掛金を全額消している。
- 源泉徴収:本体50,000円×10.21%=5,105円、振込額は55,000円−5,105円=49,895円。デザインの報酬は、原稿料などと同じく源泉徴収の対象になる報酬の区分(所得税法204条1項1号)に入る。国税庁のタックスアンサー(No.2795)にある「請求書で報酬と消費税が明確に区分されていれば、報酬の額だけを対象にしてよい」という扱いと合っている。
- 立て替え:1,240円+2,860円=4,100円。
- 税率の混在:2,160円(8%)と1,100円(10%)を行を分けて記帳し、現金は合計3,260円。
- カード引き落とし:4,400円+165,000円=169,400円。
同じ依頼をもう一度、別の会話で出した2回目も、科目と金額は1回目と完全に同じだった。違ったのは補足の中身で、2回目は「消費税が分かれていない請求書なら55,000円×10.21%で5,615円になる」「ロゴは広告宣伝費にする会社もある」といった別の注意を足していた。
実験②:別の会話に「検算して」と頼んだ
次に、検算役を試した。1回目の仕訳表のうち、No.6(源泉徴収)だけを税込55,000円を計算元にした数字(預り金5,615円・普通預金49,385円)に差し替えて、新しい会話に元のメモと一緒に貼り、「別のAIが作った仕訳が不安なので検算して」と頼んだ。差し替えたことは伝えていない。

※画面は実際の返答の文面を、見やすく再現したもの(一部省略)。
検算役は、差し替えたNo.6だけを「要確認」として挙げた。そのうえで「税込金額で計算するやり方自体は間違いではない」「請求書で本体と消費税が分かれているなら、本体50,000円で計算できる」と2つのやり方を説明し、「通帳の振込額に合わせてください」と添えていた。最後は「No.6を直せば、ほかの9行はそのまま帳簿に入れて大丈夫です」とまとめていた。
国税庁のNo.2795でも、原則は消費税を含めた金額が対象で、区分されていれば本体だけでもよい、と書かれている。つまり差し替えたNo.6は「誤り」ではなく「もう一つのやり方」だ。検算役の「2つのやり方がある」という説明自体は国税庁の記述と合っていたが、まとめでは「直せば」と、本体で計算する側に寄せていた。どちらで計算するかは、会社として決めておく所だ。ほかの9件も「329,340+660=330,000」のように足し算を見せながら1行ずつ確認していた。
実際に試してわかったこと
1. 貸借の合計が合っていても、中身が違うことはある
No.6を差し替える前も後も、借方合計・貸方合計は1,178,560円のままだった。源泉徴収の額が変わっても、預り金と普通預金の間で数字が移るだけなので、合計は変わらない。「合計が一致したからOK」は、仕訳の検算としては足りない。今回は別の会話の検算役が気づいたが、自分で見るなら「税額」「差し引き額」を個別に計算し直すのが確実だ。
2. 間違いは「表」ではなく「親切な補足」に入っていた
1回目の返答の最後に、「源泉徴収税5,105円を11月10日までに納付すること(『納期の特例』の届出をしていれば半年ごとの納付になります)」とあった。前半の「翌月10日まで」は国税庁の説明と合っている。ところが後半は、国税庁のタックスアンサーNo.2505を読むと、納期の特例の対象は給与や退職金と、税理士・弁護士・司法書士などの一定の報酬から源泉徴収したものに限られている。No.2795(原稿料や講演料など)にも「納期の特例の対象とはなりません」と書かれている。
デザイン料の支払いでこの補足を信じると、「うちは特例の届出をしているから、まとめて払えばいい」と思い込んで納付が遅れるおそれがある。表の数字は全部合っていたのに、補足で足をすくわれる。これが今回いちばんの発見だった。
なお、2回目の返答には納期の特例への言及がなく、検算役は1回目の補足を渡されていないので確かめようがなかった。補足や注意書きは、AIどうしの検算ではすり抜けやすいと考えておいたほうがいい。
3. 「迷うところ」では選択肢を並べてくる
ランチ代を交際費にするか会議費にするか、パソコンを一度に費用にするか資産にするか、といった会社の方針で変わる所では、2回とも考え方や別のやり方(1回目はパソコンの特例、2回目はロゴを広告宣伝費にする会社もある、など)を挙げ、顧問の税理士への確認を勧めていた。新人が自分で判断しきれない所を、勝手に1つに決めないのは助かる。ただ、どれを選ぶかを決めるのはAIではない。
そのまま使える指示文3つ
【 】の部分を差し替えて使ってほしい。社外秘の情報は入れず、取引先名は「A社」のように置き換えるのがおすすめだ。
① 仕訳を作らせる(理由つき)
経理を始めたばかりです。下の取引を仕訳表(日付・借方科目・借方金額・貸方科目・貸方金額)にしてください。消費税は【税込経理/税抜経理】です。それぞれの科目にした理由を一言ずつ添え、会社の方針で変わる所は別のやり方も書いてください。最後に借方合計と貸方合計を出してください。
【取引メモ】
② 別の会話で検算させる
別のAIに仕訳してもらった表があります。元の取引メモと仕訳表を貼るので検算してください。金額のズレや科目のおかしな所があれば、どの行かと正しい数字を、計算式つきで教えてください。
【取引メモ】【仕訳表】
③ 補足・注意書きの根拠を聞く
さきほどの「確認しておくと良いこと」の各項目について、根拠になる公的な資料(国税庁のページ名など)を挙げてください。分からないものは「分からない」と書いてください。
③は今回の発見から足したもので、実際にこの文面で試してはいない。挙がった資料は、必ず自分で開いて読んでほしい。AIが資料名を挙げても、中身が合っているとは限らないからだ。
Excelで自分で照合するなら、この2つ
3段目の「自分で計算し直す」は、Excelに貼れば数秒で終わる。仕訳表をD列(借方金額)・F列(貸方金額)に貼った場合の例だ。
- 貸借の一致:
=SUM(D:D)-SUM(F:F)が 0 になるか - 源泉徴収の額:
=ROUNDDOWN(50000*10.21%,0)のように、本体の金額から自分で計算して、仕訳の預り金と比べる(今回は5,105)
1つ目だけでは、今回の実験のように中身が違っても0になる。税額や手数料など「計算で決まる数字」は、2つ目のように個別に確かめる。式の意味が分からないときは、AIに「この式が何をしているか、日本語で説明して」と聞けば、ブラックボックスにならずに済む。
AIに任せてはいけない線引き
- 科目の方針・税務の判断:交際費か会議費か、資産にするか、特例を使うか。AIは選択肢を出せるが、決めるのは会社と顧問の税理士。
- 納付期限・届出:今回まさに補足が食い違った所。期限や制度は、国税庁のページか税理士で確かめる。
- 実データの貼り付け:取引先名・口座番号・個人名は伏せる。外部のAIサービスに会社のデータを入れてよいかは、先に社内のルールを確認する。
- 最終承認:帳簿に入れる前に、上の人か税理士に見てもらう流れは残す。AIは「下書きを早く作る」役だ。
よくある質問
Q. 新人がAIで仕訳を調べるのはサボりですか?
A. 調べ方の一つだと思う。今回の実験でも、科目の理由や別のやり方まで説明が返ってきて、教科書を引くより早かった。ただし、答えを確かめる手順(この記事の3段)とセットにしないと、間違いもそのまま帳簿に入る。
Q. 検算は同じAIの同じ会話でやってもいいですか?
A. 今回は別の会話で試した。同じ会話だと、自分が作った表の前提を引き継いでしまう可能性がある(同じ会話での検算は未検証)。新しい会話を開いて貼り直すのは数十秒で済むので、分けるのがおすすめだ。
Q. ChatGPTとClaude、どちらが経理向きですか?
A. 今回試したのはClaudeだけなので、比べた結果は言えない。どちらを使う場合も、同じ3段の手順で確かめれば、安心して使える範囲が広がる。各AIの料金や無料で使える範囲は、ChatGPT・Claude・Geminiの使い分けをまとめた記事で整理している。
Q. 金額が合っていれば、あとは見なくていいですか?
A. 今回の一番の学びは逆で、表の外の補足に誤りがあった。期限・届出・特例の話が出てきたら、そこだけは必ず公的な資料で確かめてほしい。
まとめ
架空の取引10件をClaudeに仕訳させたら、2回とも金額・合計は全部合っていて、源泉徴収や手数料の差し引きも正しかった。別の会話での検算も、計算元を変えた1行を見つけた。一方で、表の下の「納期の特例」の補足は国税庁の説明と食い違っていて、これはAIどうしの検算では見つからなかった。試したのは仕訳2回・検算1回だけなので、いつも同じ結果になるとは限らない。
新人がAIに頼るのは悪いことではない。ただ「理由を言わせる→別の会話で検算→計算で決まる数字と期限は自分で確かめる」の3段を手順にしておく。まずは今月の取引を3件だけ、指示文①と②で試して、Excelの2つの式で照合するところから始めてみてほしい。
お金や数字をClaudeに確かめてもらう話は、12枚のレシート金額を貼った経費精算の実験や、わざと間違えた見積もりを検算させた実験でも試している。

